<葉月と綾南つきあいだしてすぐのお話>
MM劇場 続・理性地獄
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「やー、やっぱり御堂先生は学生たちに人気ですな」
文京立教大学の研究室棟
臨床心理の教授の個室が並ぶ、その一室で
臨床心理学部の名誉教授に呼びつけられて
そこで長々と話しを聞かされているところだった。
「・・・・そんなことはないですよ」
作った笑顔を教授に向ける
学生たちの俺への評価ならなんとなく知っている
別によく思われたいとも思わないし
いちいちそんなことに反応するのも面倒だから、ほったらかしだ
「いやいや・・・授業は絶大なる人気じゃないですか」
「単位のためでしょう」
厳しいことを言うようだけれど
学生のほとんどは単位が取れればいいという考えだからな・・・・
「で、お話しというのは・・・?」
こちらから本題に入らないと
なかなか話しが進まないと判断して
自分から教授に振った。
「ああ・・・そうそう」
思い出したように教授は頷いて
「個室を御堂先生に空けようと思うのだが、どうかな?」
「・・・・個室、ですか・・・?」
今は講師室に一応机があるが、
そこは他の講師とも兼用。
それに、授業が終わったら病院に戻ることが多いし
あまり活用してなかったりする。
「・・・いや、でも・・・・・」
「澤田教授が退職されただろう?そこの部屋が空いててね」
言葉を遮るように
教授がにっこり笑ってそう言う。
「はあ・・・・」
「どうだろう?とりあえず、ということで
本当に必要なければ、また申し出てくれればいいから」
結局押し切られる形で
教授室の一室を与えられた
中へ入って、なんとなくため息
こういうのって苦手なんだよな・・・・
なんていうか・・・堅苦しくて
椅子とかは・・・黒革張り
机とかも立派で
傷ひとつ付いてないようで、ピカピカに光っている
それでもって
机と同じ素材の大きいガラス張りの本棚
・・・・まぁ、ここにある本は興味があるが
並んでいる本は
おそらく大学で所有している本なのだろう
『社会心理学読本』の分厚い本を開く。
社会心理学は殆ど専門外だが
それなりにこっちも勉強したからな・・・・
今日は病院にはもう戻らない
このあと、最後の時間に授業があって終わり。
・・・・まだまだ時間がある
そのまま本の世界に入っていった・・・・・・
コンコン
ドアを叩かれて、ハッと気づく
壁の時計を見ると、軽く1時間は経っていた・・・・
ドアのノックが続いている
せっかく集中して本を読んでいたのに・・・・
ため息をついて
ゆっくりと立ち上がる。
どうせ教授の誰かが冷やかしにでも来たんだろう
そう確信して
半分げんなりしながら
重いドアを引いた・・・・・・
「あの・・・・・」
そこにいたのは
意外や意外、綾南だった・・・・・
「綾南・・・・・」
「ごめんなさいっ・・・あの・・・講師室へ行ったら
居合わせた教授にここに案内されて・・・・・」
綾南は首をすくめる
「・・・・なんで謝るんだ?」
「だって・・・迷惑かも・・・と思って」
こんな謙虚さも
綾南のかわいいところだと思う
綾南を中に通して
ドアを閉める
「・・・・すごーい・・・」
綾南は周りを見渡して
驚いたように俺を振り返った。
「センセイ・・・ここを使うんですか?」
「いや・・・・・」
やっぱりこんな部屋、柄じゃない
断る・・・と言おうとして
ひとつの考えに至った
これはチャンスなんじゃないか・・・・?
いつも綾南が来るのは
講師室か、病院の診察室
しかもいつ、誰が来るか分からない
しかし
個人の部屋である教授室は・・・・・
・・・・たまにはあの教授たちも
いいことしてくれるじゃないか・・・・・!!
「・・・・使ってもいいかとは思っているけどな」
綾南ににっこり笑いかける
「なんか・・・センセイかっこいいです・・・」
尊敬の眼差しを向けられると
当然悪い気はしない
「・・・で?今日はどうした・・・?」
「あ、はい!あの・・・・レポートの・・ことで・・・」
つい昨日心理学の授業で出した課題
確かにあれはちょっと意地の悪い課題だったかもしれない
「でも・・・駄目ですよね・・・?」
いくら綾南でも、特別扱いをしたことはない
それは当然のことだし、綾南も分かっているはずだ
だけど・・・・・
「・・・・いいよ」
笑って頷く
今回はちょっと難しめだし
綾南じゃなくても、聞いてくる学生がいれば
それなりにヒントを与えてやろうかとは思っていたから。
「センセイ・・・・っ!!」
綾南の顔が見る間に輝いて
たぶん、思わずなんだろうけれど
ギュッと腰の辺りに抱きついてきた
・・・・・やばい・・・・・
綾南の無邪気さはいつも微笑ましいけれど
この間
綾南が無邪気に診察室で寝ていたことがあったけれど
そのときから、なんとなく悶々としているわけで。
「・・・ごっ・・・ごめんなさいっ」
綾南は赤くなってパッと離れる。
「いや・・・」
むしろ
ずっとくっついていていいくらいなんだが
「えっと・・・あの・・・さっそく・・・」
俯きながら綾南はバッグを探る。
綾南を簡単なつくりのソファに座るように勧めて
向かい合ってだと教えづらいので
隣に腰を下ろす
「自我発達の仕組みのことなんですけど・・・・」
綾南がテキストを覗き込みながら
前屈みになる
今日の綾南の服装は
前が大きく開いたニットみたいな感じで
その上にカットソーを羽織っている
それから相変わらずにまっすぐ伸びた白い脚
・・・・それがすぐ隣にあるわけで
ボルテージが一気に上がる
「えぇっと・・・・あれ?どこだっけ・・・・?」
綾南が首を傾げながら
さらに前に乗り出してテキストを覗き込む
うわ・・・・っ
この間みたいに
思わず口に手を当てて
反対側に顔を向ける
ニットから
思いっきり見えてしまった下着
またもや本能が膨れ上がる
これはわざとなのか!?
いやいや・・・綾南のことだから無意識に決まっているが
でもだからと言ってこれは・・・・っ
あきらかに誘っ・・・・・
「・・・センセイ?」
顔を逸らしたままの俺を
不審がってか
綾南が呼びかけてくる
「・・・・ごめん・・ちょっと・・・喉がな・・痛くて」
苦しい言い訳をしながら
ゆっくりと綾南に向き直る
「え・・・っ?センセイ・・・風邪ですか?」
「いや・・・そういうわけじゃないと思うんだが・・・」
とか言いつつ
なんとなく目線が泳いでしまう
自制心、自制心・・・と心の中で言い聞かせる
「でも・・・・なんとなくですけど、顔が赤いですよ?
熱でもあるんじゃないですか・・・・?」
綾南は心配そうに俺を見る
「いや・・・大丈夫だから」
なんで赤くなっているのか
知られたら絶対軽蔑されるに決まっている
そんなことになるくらいだったら
一人でこの欲望に耐えたほうがマシ・・・・・
「ちょっと測らせてください・・・」
綾南がずいっと体を前に押し出してきて
てっきり手で額を触るのかと思ったが
身長の差があるためか
ソファの上に膝立ちになって
そのまま俺の頬を両手で挟みこむと
半ば強引に自分の額にくっつける
それはつまり
綾南と体が密着するわけで
胸の感触が首元に感じる
しかも触ろうと思えば触れる位置・・・・・
・・・・・・プツン
もう駄目だ
いい加減この間から我慢の限界だ
どこかで
『やめろ!嫌われるぞ』
と言う声と
『突き進め!本能のままに!』
と言う声がせめぎ合う
・・・・・後者優勢
「・・・・・っ・・綾南・・・っ」
こんなに急いている自分も初めてだ
綾南だとどうしても自分を見失う
綾南をギュッと強く抱きしめる
「セ・・・ンセイ?」
戸惑ったような綾南の声
それすらももう、
欲望の対象でしかない
・・・・・ん、待て
この部屋に鍵をかけなかった気がする
・・・・俺とした事が・・・・!
名残惜しい気持ちのまま
綾南に1回軽くキスを送る
真っ赤になって俯く綾南
・・・・駄目だ・・・かわいすぎる・・・・!
そのまま押し倒したい衝動を
かろうじて抑えて
すぐ近くのドアに向かって鍵を・・・・
・・・・・ん?
この部屋の鍵はシンプルにつまみ式のもの
縦になっているつまみを横にすれば閉められる筈なのに
いくら横にしようとしても、なかなかそうならない
「・・・・っく・・・」
無理やりにでも力ずくで閉めようとするが
ギギギと鈍い音がして
ますます反抗するように力とは逆の方向に向かって抗う。
・・・・これは俺への嫌がらせか!!
「・・・・センセイ・・あのっ・・」
鍵と格闘しているうちに
綾南が荷物をまとめて
「あたし・・・今日はこれで・・・っ」
「え・・・・・?」
よっぽどさっきのことが恥ずかしかったのか
相変わらず赤くなったままで
軽くお辞儀をして
思わず鍵から手を離した俺をすり抜けるように
綾南がドアを開けて出て行った・・・・・
・・・・脱力
後日
教授からあの部屋の鍵のことを聞いた
なんでもドアが老朽化していて
鍵もかかりづらくなっていたらしい
・・・・そういうことは早く言え!
もちろんあの部屋を使うことを
すぐさま辞退したことは言うまでもない
・・・・そして相変わらず悶々とした日々を・・・・
俺が報われる日は来るんだろうか・・・・・?
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みぃたん、素敵なお話をありがとうございましたv
いけずぅ〜とまるちゃん風に口ずさみそうになったわー(笑)
まさに理性との闘い。
読んでる側はひたすらウケてるけど、葉月先生にしてみたら
笑えない状況なわけで。
先生、お疲れ様です!
みぃたん甘くて楽しいお話ごちそうさまです。
お腹一杯ですわ。
荒んでた心も一気に和みました。