骨



 熱いシャワーに打たれて、うっとりと回想モードに入っていた。
 昨夜も激しくて、何度意識が飛んでしまったか分からない。
 彼の指、唇、意外とたくましい胸、そこまで妄想して一気に焦った。
 パニック寸前だ。
(……うわー意識しちゃ駄目。やらしいわっ)
  ぶるぶると頭を振る。両の頬を叩くとパン、と軽い音が鳴った。
 頭の中で考えればイメージできるのはそれだけ彼との日々を重ねてきたからだ。
 微笑み合える恋人同士になって同棲を始めた。
   ぎこちなくても、前よりずっと近い。
 足取りも軽くバスルームを出ると体を拭いた。
 脱衣籠を確認すれば、置いていたはずの着替えは下着も含めて消えていた。
 その代わりに青のワイシャツ一枚がある。
「っ……もう」
 数十秒、逡巡した揚句そのワイシャツを着ることにした。
 手は袖の中に隠れ、裾も膝の下まで覆っている。
 困惑しながら、洗面室を出て廊下を歩く。
 ダイニングへ向かうと、朝食が整えられていた。
 スクランブルエッグにハム、バターロールがワンプレートに載っていて、サラダボウルには、シーザーサラダ。
「あ、ありがとう」
 ぽろりと口から出たのは感謝の気持ちだった。
  「どういたしまして」
 にこっと微笑まれて、くらっときた。
 頭を押さえた私に、
「大丈夫か? 早く座った方がいい」
 椅子を引いてくれた。そんな彼は肌蹴たシャツに白いジーンズ。
 無造作に着ていてもどこか品があるし、色気を醸し出している。
 完全に乾かしていない髪は、わざとだろうかと思う。
「美味いか」
「とっても美味しいわ」
 咀嚼し終えた絶妙のタイミングで聞かれた。
 微笑むと青も満足げだった。 
 美味しい朝食で気を良くした私は、
 ワイシャツ一枚の格好をするしかなかった怒りもどこかへ忘れてしまった。
 にこやかな食事の時間は、終わった。
 一緒に食器を洗って、部屋に戻ろうとした私に
「こっちだろ? 」
 と青がぐい、と手を引いた。
強引すぎないさりげなさだ。
 反対側の部屋へと誘われて、ついていく。
 すとん、と腰をおろしたのはウォーターベッド。
 座ったその部分が柔らかく沈んで心地よい。
 この部屋でもたくさん思い出ができていくのだろう。
(一緒に暮らすって感動だわ)
「もう少しゆっくりしてようか……」
 こくりと頷く。
 膝の上に置いた手の上に青の大きな手が重なる。
 きゅっと握りしめられた手のひらは、優しくて、じーんと浸ってしまった。
 暫く手を繋いで過ごしていたら、思考の海にダイブしていた。
本当に、この人と正真正銘の恋人同士になったのだ。
 まだ共に暮らし始めて僅かな時間しか経っていないせいか、  未だにその事実が実感できずにいた。
 もう二度と、わざと冷たい素振りをされたりしないのだと
信じていても彼が毎日一緒にいる生活になかなか慣れない。
 毎日仕事から帰ったら、顔を合わせ、同じ夜を過ごす。
 通いなれたあのマンションの部屋ではなく、新しい二人の愛の巣。
 青も気持ちを切り替えたかったのだろうか。
 私の部屋も用意されていたし、二人で暮らすには広すぎるほどの場所だ。
 青の寝室は、黒を基調としているのに対し、こちらは白を基調としている。
 家具も壁紙も同じ色なのだ。
 相談して私の部屋に置くベッドは住んでいたアパートから持ってくることにした。
 青は新しいのを買えばいいと言ってくれたけれど、思い出が詰まった
 ベッドを手放したくなかったのだ。できれば壊れて使えなくなるまで使いたい。
 二人で使う分には窮屈すぎるが、距離をとれないのでくっついていられる。
 あの密着感は今でも忘れがたい。吐息を感じられる距離だ。
 彼は、思い出なんて新しく作ればいいとあっさり買い替えてしまった。
 まだ使えるのに、荷物になるのが嫌だったのと聞いたら、
 どこか気まずそうで、何だか、可愛いと感じてしまった。
   横を向いて微笑んだ。
 キングサイズのベッドはゆったりとしていて二人でもスペースが余る。
 どういう意図か何となくわかってしまって頬を赤らめた。
 前のマンションで実感したことだった。
 私の右手と彼の左手を繋いでいる。
 初めて会った日に抱き合った私達だったが、また最初から始めているみたいだ。
 飽くことなく会う度に夜を重ねてきたのにもかかわらず新鮮な気持ち。 
 指を絡めては放すささやかな行為にもときめいている。
 ふいに、視線に気づき瞳を揺らす。
「え……っと……青? 」
 覗きこまれ、心臓がばくばくと音を立てた。
  「何だ? 」
「何か言いたいことでもあるの? 」
 無意味に甘い顔で見つめられても困る。
   不器用ながら、変わっていってる……ううん本当の姿を見せていっているのが分かる。
 言葉では答えはなかったけど、握られる手の力が強くなっていた。
   少し温度の低い彼の手は、大きくて指も長くて骨ばっていて、男の人だと意識する。
 野暮ったさはまるでなく指の先まで綺麗なのだけれど。
 手を繋ぐことが、こんなにも安心することなのだと知ったのは、
 あの切ない日々の中だった。
 もどかしげに、どこか躊躇いがちに触れる手のひらも愛しく思えたものだった。
 今では自然になってきて、素直な優しさを感じられるようになった。
 それでもずっと繋いだままでいるのも落ち着かなくて、ぶるぶると頭を振る。
 ぱっと手を放したら、すかさず腕を掴まれて身を竦めた。
「どうして、手を放すんだ? 」
「ドキドキしすぎちゃうんだもの」
「どんな風に? 」
 そっと青の方を窺えば、濡れたような瞳をしていて、
 一瞬囚われてしまう。
「変な気分になるの! 」
「触れられたいってことか」
 ぞくっとした。艶めかしい声と眼差しが迫ってくる。
「ちょ……ちょっと待って」
 シーツに手をついて、見上げる。
 こんな雰囲気になるなんて思わなかった。
 そもそもご飯食べて寝室に移動したのが間違いだったってこと?
 いつの間にやら吐息が触れあう距離にいる。
 後ろは壁でもはや逃げ場はない。
「ち……違うわ……たぶん」
「じゃあなんでこんなに鼓動が早なっているんだ。
 走った後みたいだが」
 青の手が、胸の心臓がある場所に置かれている。
 い、いつの間に!?
「確かめないでよ……」
「口ばかり強がる嘘つきに言われたくないな? 」
 声のトーンが一段と低くなり、びくっとした。
「……んっ……ふ」
 いきなりやわやわと揉みしだかれて、甘い声が鼻から抜ける。
「こうされたくてしょうがなかったんだろ」
 ニやりと口元だけで笑われる。
 かあっと頬が火照り、首筋まで熱を発している。
 手の動きが速くなり、ますます感じてしまう。
 首を仰け反らせた時には、ベッドに横たわっていた。
 両の手首は力を加えず、そっと押さえられている。
「青……」
「お前と一緒に暮らすことができて俺は幸せだ」
 髪を梳く手は、絶妙の力加減で心地よさだけを感じる。
「綺麗だな」
「だってさっきシャワーしたばかりよ」
「そういう意味じゃないよ……」
 甘やかな響きにぼうっとしてくる。
「また派手な音が聞こえてきたぞ」
 胸元に頬を埋めて音を聞き取っているらしい。
 かあっと頭に血が昇って、顔を逸らす。
 くすくすと笑う気配が、体に直接聞こえてくるようだ。
「俺の腕の中で存分に殺してやるから」
 本当に殺されてもいいと心が麻痺する。
 激しく燃えた夏の夜も腕の中で死んでもいいとすら思った。
 髪をひと房掬いとり、手のひらの上で口づける。
 頬に吐息がかかる。
 既に抵抗する気力なんて皆無だ。
 髪がシーツの上にこぼれ、散らばった。
 遮光カーテンから淡い光が差し込んでくる。
「私、殺されちゃうの? 」
「ああ、俺と心中さ」
 シーツの上に投げだした腕は、了承の証。
「嬉しい……」
 キスが降り注ぐ。
 額から、頬、首筋、鎖骨のくぼみへと、
 リップノイズが響いてキスが落ちる。
 うっとりと目を閉じて、身を任せた。
(あなたと共に天国へ往こう)
「んっ……」
 吐息を奪う口づけ。
 舌を差し出して縺れ合わせる。
 リアルな音が官能を呼び起こすようだ。
 唇が離れる時、名残惜しくて仕方がなかった。
  「キスして……もっと」
 青は啄ばむように、唇を触れ合わせた。
 私は彼の肩に腕を回して応えた。
 今まで何度も交わしているのに、結ばれてからというもののキスはより特別になった。
 愛しい人と想いを伝える為に触れ合う。
 キスをする度に新しいキスが欲しくなる。一度として同じキスはないから。
 手を繋ぐことも抱擁することも同じなのだけど。
 吐き出した息が重なり、どちらのものともつかない。
 膝を立てると、ようやく自分がワイシャツ一枚だったことに気づいた。
 ワイシャツ一枚の下は何も着ていない。
「……青、私の下着と服知らない? 」
 遠まわしに聞いてみるが、案の定動じていない。
「もう今更そんなこといいだろ」
「よ、よくない……っん」
「似合ってるよ。たまにはそういう格好もそそられていいな」
 しみじみと呟いている。やたらと楽しそうだ。
「袖も裾もぶかぶかよ。手が出ないし」
「可愛いよ」
「っ……あ……ん」
 ひんやりとした冷たい手が腹部から這い上ってくる。
 胸のふくらみに触れられた時、背筋を震わせた。
 直接触れられた快感は言い知れないもので、
 指の腹で転がされる頂きが、堅く膨れるのが感じられる。
 口の端を歪めた青が、私の体をベッドに縫いとめた。
 さっきよりきつく手首を掴まれている。
「青ってこういうの好きだったの? 」
 掠れ気味の声で疑問を口にした。
「俺にもこんな嗜好があったなんて知らなかった……自分でも驚いてる」
(ええ……!? )
「全部お前のせいだよ。
 ったく、今まで女にこんな格好させたいと思ったことすらなかったのに」
 やけ気味に言われ、押し黙る。
 私のせいだなんて言われても反応に困るけど、
 後半の言葉は単純に嬉しかった。
 彼にとって私は今までの女性とは違うってことが。
 しんみりしたところで我に返った。
 首から下がすうすうと外気に触れている。
 さっきまで一応、着ていたはずのワイシャツはすっかりボタンが外されて
 もはや羽織っているとしか言えない状態だ。
 まさか、着て一時間ほどで脱がされるなんて想像していなかった。
 顔を真っ赤にして、じとっと睨む。
「せっかくシャワー浴びたのに」
 青はあきれ顔でこちらを見ている。
「無意識で誘う小悪魔だな」
「……あなたが悪いのよ」
「下着ならソファにあるぞ。着替えるか」
 脳内で思考する。
 青は妙な所で冷静だ。
 私は、ぶるぶると首を振った。
「いや……っ」 
 起き上がって抱きついた。
 青の服の生地に肌が触れる。
「わがままだな……」
 唇を尖らせてふくれた。
「じたばたせず大人しくしてろ」
 青は、意地悪な顔で笑った。
「うん……」
 思わず頷いて、目を閉じると切羽詰まった声音が耳に届いた。
  「ヤらしい……我慢できなくなるだろうが」
 何がヤらしいんだろう?
 と疑問に思っていると、
「口を薄く開けて何て顔するんだ」
 呆れた様子で言われた。
 無意識だった。 
「や……んっ」
 頂きに吸いつかれて心臓がさらに加速度を増して暴れ狂う。
 歯を立てられ、強く吸われて過敏に反応する。
「散々焦らしたんだから覚悟はできてるんだろ」
 頂きに息と言葉が吹きかけられ、背筋がぞくりとした。
 膨らみをもむ手、頂を吸う唇……交互に繰り返され、  長い時間胸ばかり攻められていた。
 赤く色づき、すっかり固くなった頂きは唾液で濡れそぼり光っていた。
 チュッ、と軽く触れて、ようやく唇が離れていった。
「……くぅ」
 名残惜しげな声が漏れてしまいはっとする。
「胸への愛撫が好きだな、お前は」
 両の頂きが摘ままれ指の腹で押しつぶされる。
「どっちが硬いかな」
 腹部に当たってくるソレは、生地の上からでも硬く反り返っているのが感じ取れた。
 腰に電流が走る。欲しがっていることを悟られたくはない。
「ゆっくり? それともさっさとイかされたい? 」
 言葉で攻め立てられ、体の芯まで痺れる。
 中から蜜が溢れてきた。
 首筋から鎖骨へとチクり、棘の様な痛みがさす。
 それは、上半身のいたる所にも感じる見事な赤い花を咲かせていった。
 正面から向かい合って、明るい時間に懲りないと思う。
点々と散らばる花弁が増えていく。
 心身ともに結ばれて、より優しくて丁寧になった愛撫。
 もっと強く感じるようになったせいで、あっという間に余裕なんてなくなる。
 以前は翻弄されることへの恐怖もあったけれど今は何も考えず酔っていられる。
「は……っ……」
 ぎゅっとシーツを掴む。  指先が滑ってシーツに皴を作った。
 腹部を降りた指と唇。
 膝が割り開かれ、太ももから足首へと指と唇がゆっくりと辿っていく。
 燃え盛った体は青を求めてわななき出した。
 腰が勝手に揺れている。
 秘部はとっくに潤っていて、彼を待っている。
「沙矢……見ているだけでイきそうだ」
「えっ……」
 ぱさり、と乾いた音がした。
 彼が衣服を脱ぎ棄て、一糸まとわぬ姿になった。
 シーツの中、もぞもぞと動く気配。
 触れるぎりぎりの体勢で、真摯な顔で問いかけてきた。
「……つけてるの、見たい? 」
(な、なぜ今このタイミングで聞くの!? )
 とっさに言葉が出なかった。
 彼は余裕たっぷりのようだけど、こちらの反応を見て楽しんでるのだろうか。
 もどかしくて身をよじる。
 青はにやりと邪な笑いを浮かべた。 
「避妊具も種類多いし色々試すのも面白い。
 お前も色んな感触味わえて飽きないだろ。
今日のはどんなのだと思う? 」
興味が湧いてきたけど、直接見るのはどうかなとやめておいた。
 あの日自ら、腰を沈めたことはこの際置いといて。
 こくりと頷いて息を吐き出す。
 気持ちを伝えるために口を開く。
「え、遠慮します。青が恥ずかしいといけないもの」
「遠慮しなくてもいいのに」
 濡れた瞳が、私を射抜く。
 耳朶を噛まれ、蕾を押しつぶされて、あっけなく昇りつめた。
「ああ……っ」
 息を肩で整えている時、ベッドに重みがかかった。
 秘所に硬い感触。薄い膜に包まれた彼自身だ。
 ごくりと息を飲みこむ。
 擦るように触れ合わせて、ゆっくりと這入ってくる。
 昨夜とは違い、少しずつ私の中を目指している。
 もどかしくて、むずむずとしてくる。
 ふくらみに置かれた手が、巧みに動く。
 下から押し上げて、手のひらで捏ねられる。
 最奥に辿り着いた彼が、息をついて、覗き込んできた。
「……熱い」
「っ……は」
 触れられている膨らみも繋がる部分もどこもかしこも熱くて仕方がない。
   指の腹で擦られて痺れる。
 そこから奥へと伝わる悦楽。
 さりげなく、足を絡めると青が勢いよく貫かれた。
 駆け抜ける感覚に奇妙な声を漏らしてしまう。  
「その顔、好きだ……沙矢」
「あ……ん……青」
 貫かれる。
 奥を擦って、浅い場所に触れてやがて出入りを始める。
 その度に聞こえる弾む音。
 どくどくと鼓動が重なってひとつになっていく。
 背中を強く引っかくと青の動きが速くなった。
「しめるな……きつい」
「っ……」
 存在感を増した青自身が、迫ってくる。
 痛みなんてなくて、言い知れないほどの気持ちよさしかないのだけど。
 ぎゅっと繋がれた手は、普段と違いとても熱い。
 握り返して、彼に微笑むと目を細めて見つめられた。
 愛しいと思ってくれているのがわかって、涙がにじんだ。
ぐい、と腕が引かれ、青と位置が入れ替わる。
 彼の上になって、より奥に彼を感じた。
一度抜け出ることなく、また繋がれる。
 どこからが、彼か分からないほどになっているけれど。
 クールで妖しい眼差しが見つめてきて、息をのむ。
 ぐんと突き上げられ、促されるまま腰を揺らした。
「んっ……あ……っは……」
 夢中で、揺れて一体となっている事実に浸る。
 私が上にいても、逆に攻められていると思う。
 彼が満たされたと感じたあの月の夜だって導かれていただけ。
「愛してる……沙矢っ」
「ん……好きよ……青……愛してるわ」
 頬を伝わる滴が、彼の肌の上に落ちる。
「粉々になっても離したくない」
「怖いけど怖くないわ」
 こういう時言葉を交わすのは素敵。
 まさに愛し合ってるって感じがする。
 私はただ波を待つだけ。
 後は、彼が連れて行ってくれる。
主導権は青が握っている。
 覆いかぶさる私を骨が軋むほど強く抱きしめた。
 繋がったまま体を反転させる。
 向かい合って深い口づけを交わす。
 首に腕をからませた。
 伸びてきた手が膨らみをわし掴む。
 揺れながら、そのリズムのままに愛撫される。
 繋がり続けた体が悲鳴を上げていた。
「……んっ……もう」
「ああ……思いっきりくれてやるよ」
   青が一層奥深くを貫いた。
 首に腕をからませて抱擁する。
 襲ってくる鋭い波に飲み込まれた私は、
 ぐったりと彼にもたれかかって、目を閉じた。

「……や」
 誰かが呼ぶ声がする。
 意識の向こうから、聞こえてくる声は、静かで優しくてとても愛おしかった。
「沙矢」
 まぶたを擦りながら、目をあける。
 ぼうっと肌を見やれば、ちりばめられた赤い痣のようなものがある。
 肘をついて、じっとこちらを見つめてくる青に顔を赤らめる。
 そんなにもまっすぐに見つめてくるなんて何かついているの。
 けだるくて、身を起こすのも億劫でシーツの上で
 手をさまよわせるとさりげなく手をつかまれる。
 大きな手が、額から頬をなでて首筋に触れた。
「せい……?」
 舌っ足らずに名を呼ぶと彼は、小さく笑った。
 とんでもなく魅力的な表情で。
 額に張りついた髪を避けて、キスが落ちる。
「くすぐったい」
 軽い笑い声をあげて身をよじる。
 そのまま抱きしめられ、耳元に囁かれた。
「愛してるよ……」
 ぎゅっと抱きついたらまた強く抱き返される。
 抱き合った後こうして触れ合う時間が好き。
 さっきまでの情熱とは違い相手を感じ安心する為のもの。
 髪を梳く手が、心地よい。
 広い胸に包まれて、もう一度目を閉じた。
        
   

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