唐突過ぎる接吻け  


ひとしきり笑い転げる涼ちゃんに、内心むっとした。
 そんなにおかしいのと言ってやりたくなる。
 距離が近すぎることに気づいた時には遅くて、  腕を取られ掴まれていた。
「何、どうしたの?」
 息が苦しいほど抱きしめられて、腕の中で息をつく。
 このぬくもりが欲しかった。
 ずっと彼の側にいられることを夢見ていたから
 この腕から逃れられない。
   髪を撫でられて、唇が触れている。
 背中をたどる手のひらを感じ心臓が跳ねた。
 さすがに動揺して、声を荒げる。
「……りょ、涼ちゃん」
「ちょっとの間、こうしててもええ?」
「確認が遅い……」
 事後承諾だなんて、分かりやすい確信犯だ。
 それでも友達の距離を律儀に守ってきたのに、
温かさを  知ったら離れたくなくなる。
 危うい距離感に素知らぬふりをして身をゆだねる。
 もどかしい口調の言葉は抵抗も示せていない。
 芝生の上、涼ちゃんにしがみつく格好で座り込んだ。
 甘えているみたいだ。
 引き寄せられて、胸に抱かれる。
 顔が重なった。キスが落ちてくる。
 誘惑に抗いきれなかった。
 触れ合っているだけなのに次第に目元が潤む。
 唇が、しっとりと濡れてきていた。
 ようやく離れた後で、視線を上向ける。
 そのまま動けなくなった。
 彼を凝視してしまう。何も言葉が出てこない。
 嫌じゃなかったのだ。
 時期が来るまでは友達としての距離を保ちたい。
 固い決意がもろく崩れそうになる。
 状況に流されることを選んだ自分の浅ましさが情けない。
 結局、彼に導かれていくしかないのだろうか。
   息を吐き出して、強く涼ちゃんを見つめた。
「……か、帰る」
 ふらふら立ち上がって、背を向ける。
 頭の中がこんがらがっていて何も考えられない。
「おう、気ぃつけて帰るんやで」
 あっさりと、私を見送った涼ちゃんを振り返る。
 認めたくないのに罪悪感がこみ上げた。
 唇を噛んで脱兎のごとく駆けだす。
 ずるいのは、私だ。





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恋十題by乙女の裏路地  

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