はじめて



 せい兄に頼んで、どうにか別荘を貸してもらえることになった。
 正確な場所は、母さんに聞き、小旅行へ。
 ちょっと遠いけど、きっと忘れられない思い出になるはずだ。
 都内から高速に乗って出かけるなんて初めてで小旅行の気分。
 別に、それだけが目的ではないし、駄目であっても焦ることはないと思う。
 時が満ちていないだけなのだから。
 そういや近くにスキー場があったな。
 次に来るときはスキーでもするか。
 今回は温泉に浸かってのんびりする予定だ。
 ああ、自分が蒔いた種ではあるが、報告をしなければならないと
 思うと憂うつだな。くそー。せい兄の楽しんでる姿が想像できて嫌だ。
 俺は悶々と考え続けていた。
「七面相になってるよ、砌」
 顔を斜めに倒してこっちを覗きこんでるな。
 横に流れた髪がちらっと見えたぞ。
「おもしろーい」
「見るな!」
「退屈を紛らわしてるの」
 抜けぬけという明梨が小憎らしい。
 人が運転していて反応できないから好き放題だな。
「わ、今度は怒った」
「お前な……」
 とっとと別荘について、逆襲しよう。
「後で覚えてろよ」
「うん、忘れないよ」
 お前という人間が理解できてなくて悪かったよ。
 天然というものの恐ろしさを思い知らされたな。

 別荘地の中に自己主張の激しい一件の建物。
 立て札には「藤城 青」の文字。
「ハイジもおじいさんもペーターも真っ青だね」
「……あの家は家畜がほとんどスペースとってないか」
「え、ユキちゃん達は家の中に住んでるわけじゃあ」
 ピントのずれた明梨の思考にも大分ついていってる俺は世間ずれする一方に違いない。
 何故ハイジネタなのかといえば、山にある別荘だからだろう。
 はっきりいって他の共通要素は一個もない。
 明梨はきょろきょろと忙しくなく辺りを見回している。
 玄関入ってすぐのリビングに荷物を置くとエアコンのスイッチを入れた。
「着いたって連絡しなくていいの?」
「いやそのことなんだけど」
 うわ、いい難いな。無条件で使わせてもらえるんだと思ってるだろうし。
 まさか報告が条件だなんてな。いや交換条件受け入れても借りたかったんだから
 しょうがないけど。いかにもって感じで最初がラブホは嫌だったんだ。
「さっきから黙り込んでるけど緊張?」
 こいつの頭の中身を覗いてみたい。余裕か何も考えてないのかどっちだ!
「あのさ」
「ちょっと探検してくるね!砌、疲れてみたいだからそこで休んでるといいよ」
 明梨はソファを指差し、向こうへ駆けていった。
 このマイペース娘め。
 人が話そうと思ったら・・・。
 腰を下ろすとふわふわ感が伝わってくるソファー。何の毛皮だろう。
 むちゃくちゃ座り心地いい。
 でも一人だと広すぎる。手持ち無沙汰だ。
 顎をしゃくってみたり頭をかいたり一人で何やってんだ俺。
 伸びをすると欠伸が出た。
 部屋も温まってきて段々睡魔が。


「砌、砌ってば」
「……うわっ!」
「広かったよー何処使おうか」
「寝室ならどこでもいい」
 明梨は途端に顔を真っ赤に染めた。
 ちょうど赤い絵の具をパレットに出しすぎてしまったみたいな。
「何今更意識してんだよ。俺の部屋にもベッドあるだろ」
「今日は二人きりで旅行に来てるんだよ。何か特別じゃない」
 ああ、そっか、そうだな。
「すっげえ贅沢だよ」
 こんな別荘に泊まれて、そして何よりも明梨が側にいることが。
 彼女を抱きしめた。幸せを噛み締めるように。
 肩に頬の熱が伝わってくる。
「うん」
 ぎゅっと背中に腕が回されると、とくんと心臓がひとつ鳴った。
 俺の頬に摺り寄せられた頬。間近で見詰つ合って額同士をくっつける。
 どうして明梨は俺をこんなに夢中にさせるんだろう。
 って馬鹿だよな。自覚してるよそれくらい。
 どうせ末期の明梨馬鹿だから。
「愛してる」
 ぼそっと耳元で囁いた途端に心臓の音が激しくなった。
 静寂の部屋の中、時計の秒針と、エアコンから温風が吐き出される音と明梨の心臓の音。
 ただ見つめあうだけで動かない。
 先に行動を起したのは明梨で、
「愛してる、砌」
 ふいに重なった唇に目を見開いた。不覚にも反応が遅れてしまう。
 思わぬ時間差攻撃だった。もう止まれない。
 ふわと明梨を抱き上げて、階段を上がる。
 何個もあるドアから一番近い部屋のドアを開くと、目に飛び込んできた
 ダブルベッドに腰を降ろした。
 サラリ。伸びた明梨の髪が肩先で揺れす。
 俺はそっと掬い上げ、キスをする。
 明梨が小さく笑った。
「すごいキザ」
「うるさい」
 笑いあいながら、口づける。
 柔らかい髪を指先で梳くとさらさらと零れ落ちた。
「怖いことなんてないから。嫌だったら言えよな」
「うん」
 キスを交す。
 熱を確かめるみたいに舌を触れ合わせて。
 明梨の温度と俺の温度を交差させる。
 神経が溶ける。
 ふわと漂う感覚。
「……ん」
 瞳を閉じた明梨が頤を仰け反らせる。
 俺たちは、ベッドに縺れ合うように倒れこんだ。
 俺が着ているセーターを明梨が脱がし、俺が明梨のニットのワンピースの留め具を外した。
 邪な気持ちじゃなく、純粋に結ばれたいと願う。
 俺の首筋に明梨が腕を絡める。
 こっちを見つめるその淡い眼差しを見下ろし、微笑む。
 耳朶にそっと口づけると明梨の体が微かに反応した。
 ぴったりと抱きしめあう。肌同士で触れた。
「砌の心臓の音すごい」
「お前こそ」
 そうか俺も明梨のこと言えないのか。
 緊張かよ。彼女に嫌な思いさせたくないのに、駄目だな。
 なんて思ってるのは内緒だけど。
 第一、こんな時余裕で笑ってられるほど慣れてないし軽くない。
 首筋から唇を滑らせ、鎖骨に移動する。
 何度か口づけては離し、音を立てて吸い上げる。
 結構力を入れないと痕は残らないものなんだな。
 最初にそれをした時、明梨は眉尻をきつく絞った。
 痛いのかもしれないと思って止めようとしたら肩に腕が伸びてきて。
 ああ明梨は……。彼女を見るとこくんと頷いた。
 それなら一つでも多くの印を残したいと思った。
 肌の色とは違う赤が増えていくほどに、満たされる気がした。
 甘くなる声を聞くと、感じてくれているんだと。
 吐息が漏れ始めている。
 胸の間にキスを落すと背筋を反らせた。
 下から持ち上げるように膨らみに触れて確かめると柔らかさに驚く。
 唇に胸の頂を含むと高い声を上げる。
 手で揉みしだきながらもう一方は唇で愛撫した。
 「ん……あ……っ」
 愛しさで胸が詰まりそうだ。
 恥ずかしそうに頬を染めながら声を上げるのを見て
 早くひとつになりたいという思った。
 ずっと時間をかけてここまで来て今になって焦燥で煽られることになるとは。
 感じ合う為には焦ることは禁物だ。
必死に自分に言い聞かせ、愛撫を続けていった。


 
 深く口づけた。
 唇で舐めた後、舌を咥内に侵入させ、歯列をなぞり舌を探し当てて絡ませる。
 首筋からぽとりと落ちる雫が淫靡で、目を背けたくなった。
 舌を絡ませていると明梨もおずおずと舌を差し出してきた。
 体の熱が上がっていく。きっと暖房なんていらない。
 火照って色が変った肌に汗が弾けている。
 足の間に指を忍ばせると敏感に反応した。
 溢れかえっている泉の周囲を指で辿り、少しずつほぐしてゆく。
 中心の部分を指先で押すと高い声を上げて体を弓反りにさせた。
 焦らしているつもりはないが、まだ、もう少し。
 さらりと髪の先が明梨のそこを掠めた。
「や、な、なに!?」
 驚いている明梨をやんわりと無視して続ける。
 唇で密を掬い、舌先をすぼめたり突き出したりして秘所全体に触れた。
 甘さを含んだ絶叫が広い部屋に響く。意識を手離したようだ。
 身も心もこの上もなく高ぶっている。
 明梨が昇りつめている隙にと下着も取り去った。
 ぱさりと乾いた音がして床に落ちる。
 脱いだズボンのポケットからソレを取り出し、準備を整えた。
 再び覆い被さるとキスをしながら一気に侵入し奥まで突き上げた。
「ん……!?」
 体の中に入り込んだ異物に明梨が顔を顰める。
「大丈夫だ」
 痛みが少しでも和らげばいい。
 自分にも言い聞かせている気がしたが。
 生理的な涙が明梨の瞳からこぼれている。
 ぺろっと唇に舌で触れてキスをする。
 肌を掌で撫でた。
 髪を避けて額の端っこにもキス。
 ぎゅっと背中を抱きしめると明梨が落ち着いてきたのが分かった。
 ゆっくりと反応を見ながら動き出す。
 耳たぶを噛んで舐め上げた。
 耳朶に舌を挿し入れる。勿論、その間も動きを止めていない。
 快楽が目覚めたのか、あまやかな喘ぎ声が響き始めた。
 吐息がかかった声は、普段の彼女とは別人で色っぽくて、ますます魅かれていく。
「あ……ん……っ…砌、大好き」
 艶めいた声のささやき。
「俺も明梨が大好き」
 動きを速めて腰を前後させた頃、明梨が自分の足を俺の腰に絡めてきた。
 彼女の内は温かくて、無我夢中で泳いだ。
 波が押し寄せると感じた瞬間、明梨の手の平に指を絡め合わせていた。
 手を握るとお互いを一番近くに感じられた。
 熱がぶつかると明梨は声にならない声を声を上げて意識を手放した。
 彼女の瞳に涙の後が見える。
 それを見ると切なくて……。
 自分も何故か涙を零していた。
 融ける意識。彼女を抱きしめながら墜ちてゆく。
 痛いくらい指先を絡め合わせたままで眠りの底まで共に。


ふと目が覚めると、穏やかなぬくもりに満たされていた。
 改めて夢じゃなく現実なんだと実感すると口元が自然と笑みの形を作る。
 やわらかな表情で眠りについている明梨を見ていると無性にキスしたくなった。
 両の頬にキスをして鼻の辺りも舐めた。
 自分の仕草が気障すぎて赤面する。
 瞼が閉じかける。まだ体は眠りを欲していた。
 腕枕をするとぐいと明梨を引き寄せた。
 彼女を抱きしめていること安堵する。
 そして眠りへと誘いこまれていった。



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